急性腹症に潜むAHP 病院総合診療医の取り組み事例

本記事は、医師・病院と患者をつなぐ医療検索サイト「メディカルノート」に掲載されている内容を転載したものです。

患者さんの幸せのため、どんな症状・訴えにも向き合う

――岐阜大学医学部附属病院の総合内科の取り組み

森田 浩之先生
森田浩之先生のお写真

医療の専門分野が細かく分かれる一方で、患者さんの多くは複数の悩みを抱え、中には、どの診療科を受診すべきか分からないような症状に苦しむ方もいます。岐阜大学医学部附属病院 総合内科では、そのような患者さんたちに正面から向き合い、さまざまな診療科と連携しながら広い視野をもって的確な診断・治療に導くよう努めています。今回は同院の総合内科 科長の森田 浩之(もりた ひろゆき)先生に、診療科の特色や取り組み、診療において大切にしている考え方などを伺いました。

総合内科の役割とは?

総合内科の役割は大きく2つあると考えています。1つは、受診する診療科を迷っている方や、複数の症状を抱えている方に、まずはどの診療科に行くべきか方向性を示す役割です。どの診療科を選んだらよいか悩んでいる患者さんを最初に迎え入れる窓口となり、適切な診療科へと導く存在であるといえます。

もう1つは、複数の症状、あるいは他院で診断がつかなかった症状がどのような病気によって引き起こされているか明らかにして、的確な治療へつなげる役割です。たとえば、腹痛を訴えて受診した方であっても、必ずしもお腹に原因があるとは限りませんので問診や検査によって原因を特定していきます。

問診では、まず何時頃から腹痛があり痛みのピークは何時頃だったか、時間の経過とともに痛みの程度に変化はあるか、お伺いします。さらに腹痛の場所をお伺いすることで、原因となっている臓器を推定します。ほかにも、痛みは間欠的か周期的か、あるいは持続的かという特徴を確認したり、腹痛や腹部手術の経験に加えて、血尿や血便などの随伴症状を確認したりしていきます。原因を突き止めるために、これらの問診に加えて、腹部触診で圧迫した際の痛み(圧痛)や、カーネット徴候やブルンベルグ徴候∗∗の有無を確認したり、エコーやCTなどの画像診断、血液検査、尿検査を行ったりすることもあります。

これらの問診や検査の結果、原因がお腹以外にあると分かるケースもあるのです。代表的なものは急性下壁心筋梗塞ですが、胸膜炎や帯状疱疹、肋間神経痛のほか、家族性地中海熱や急性肝性ポルフィリン症、遺伝性血管性浮腫、IgA血管炎などの希少疾患であることもあります。

総合診療医は、さまざまな病気を診る経験を積んでいるので幅広い可能性を考えながら診療することができます。現代の医療は専門化・細分化されており、医師は自分の専門分野については知識を備えているものの、他分野の病気の診断に限界があることは否めません。患者さんが訴えるさまざまな症状を広い視野から捉え、診断・治療の道筋をつけるのが総合内科の役割といえるでしょう。

カーネット徴候:狭い範囲に痛みが限られており、腹筋に力を入れる動作(両足を持ち上げたり上半身を起こしたりするなど)によって痛みが強くなる徴候のことを指す。陽性の場合、腹痛の原因が腹壁にあることを意味する。
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ブルンベルグ徴候:徐々に腹壁を圧迫した後、急に解除した場合に疼痛が起こる徴候のことを指す。陽性の場合、腹膜炎があることを意味する。

岐阜大学医学部附属病院 総合内科の取り組み

力を注いでいる膠原病診療

岐阜大学医学部附属病院 外観
岐阜大学医学部附属病院 外観の写真

総合診療医が所属する当院の総合内科の大きな特徴は、膠原病の患者さんの診療に積極的に取り組んでいることです。外来診療に加えて、免疫抑制薬を使用する場合などは入院治療にも対応しています。

2004年に当院が現在の場所に移転したのを機に当科で発熱外来を開始したところ、地域のクリニックからの紹介で受診される方の中に、膠原病の患者さんが一定数いらっしゃることに気付きました。膠原病は全身の関節や血管、皮膚、粘膜、筋肉や内臓などに慢性の炎症が起こる病気の総称で、代表的なものに関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどがあります。発熱や関節痛、間質性肺炎∗∗、不整脈などさまざまな症状が現れるため、全身を丁寧に診る必要があり、総合内科として力を入れるべき分野だと考えました。それ以来、当科を挙げて膠原病について知識を深めてきたのです。

さらに、偶然にも当時私がリウマチ専門医∗∗∗を取得した当院で唯一の内科医師だったことから、膠原病の患者さんたちをご紹介いただく機会が増えていきました。現在では、当科を受診される方の中でもっとも多いのは膠原病の患者さんです(2022年4月時点)。若手医師も興味を持って学ぶ者が多く、リウマチ専門医も増えています。

全身性エリテマトーデス:両頬に蝶が羽を広げたような形の紅斑が現れるのが特徴で、10~30歳代の女性に多くみられる膠原病の1つ。
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間質性肺炎:肺の間質(肺胞や気道以外の肺の組織全体)で起こる炎症性疾患。
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リウマチ専門医:日本リウマチ学会認定のリウマチ専門医のこと。以下“リウマチ専門医”とある場合はこれを指す。

原因不明の発熱患者さんを受け入れる発熱外来

発熱外来では、原因不明の発熱を訴える患者さんを積極的に受け入れてきました。発熱には、熱射病や日射病などの外的要因によるもの、脳腫瘍や脳の外傷による中枢性発熱、感染症から体を守る生体防御反応によるものなどがあります。これらのうちもっとも多いものは感染症に起因する発熱ですが、中には原因がはっきりしない事例もあり、その多くが膠原病を含む自己炎症・自己免疫疾患によって引き起こされます。

当科は、他院からの紹介を受け、この原因不明の発熱を訴える患者さんの診療にあたっており、必要に応じて入院治療にも対応しています。発熱外来をスタートしてから積み重ねてきた経験・知識を生かして、原因となる病気を特定するよう努めています。

新型コロナウイルス感染症後遺症外来を開設

当院では、2021年11月に新型コロナウイルス感染症後遺症外来を設置し、新型コロナウイルス感染症の後遺症に苦しむ患者さんや、ワクチン接種で副反応があった方の診療を行っています。後遺症に関しては40歳ぐらいまでの比較的若い患者さんが多く受診されており、倦怠感や息苦しさ、味覚・嗅覚異常、ブレインフォグなどの症状を訴えられます。

新型コロナウイルス感染症の後遺症であると認定できれば、その旨の診断書をお出しして、勤務先などに療養の必要性を示します。そのうえで、味覚・嗅覚異常がある場合には当院の耳鼻咽喉科と、息苦しさを訴えるケースでは呼吸器内科と、脱毛などでは皮膚科と、ブレインフォグでは脳神経内科と連携して、改善に向けた訓練や治療を受けていただいています。

ブレインフォグ:理解力・判断力が低下する、記憶があいまいになるなど、頭にもやがかかったような状態。

診断までの流れ――適切な治療へと導くために

問診により症状と検査・治療履歴を把握する

当院の総合内科では、まずは患者さんのお話を聞き、何に困っているかを把握します。どのような症状がいつから起こっているかを確認するのです。そのうえで、他院を受診されていれば、そこで受けた検査項目と結果、治療の内容と症状の推移を具体的に伺っていきます。他院での検査画像のデータを持参していただいた場合にはひととおりチェックし、加えてご本人とご家族がどのような病気にかかったことがあるか、病歴についてもお尋ねします。

全身の診察を行う

診察で手の観察を重視する理由

問診に加えて、頭の先からつま先まで、全身をひととおり診察します。中でも、まずは手をじっくり観察します。手には、さまざまな病気の症状が現れる可能性があるからです。当科で診療する機会の多い膠原病の中には、手の爪に変化が起こったり指先に潰瘍が出たりする特徴的な症状がみられる病気があるため、指先を診ればいくつかの病気の可能性をある程度判断することができます。

さらに例を挙げると、関節リウマチでは関節が腫れるため痛みがあり、炎症を起こしている部分は真冬でも熱を帯びています。一方、強皮症など血流障害を伴う病気の場合、真夏でも指先が冷たくなります。このように、手から得られる情報は思いのほか多いため、手を診ることを重視しています。

強皮症:皮膚や内臓が硬くなる病気で、初期症状としてレイノー現象という血流障害が現れる。30~50歳代の女性に多くみられる膠原病の1つ。

触診で発熱箇所を探ることも

発熱している患者さんの場合にも、まずは手を観察します。手の皮膚の硬さや色などから診断がつく病気もあるからです。その後、全身を診察し、発熱箇所を探っていきます。熱を発している部分は炎症を起こしており、赤くなったり腫れたりして触ると痛みがあるはずです。触診により体の表面から情報を集め、発熱箇所の見当をつけていきます。また、血管に炎症が起こり発熱する血管炎の可能性がある場合は、聴診器で血流の音を聞くこともあります。

不必要な検査は行わないよう工夫を

可能な限り触診や聴診、あるいは超音波検査などにより病気の部位を見極め、不必要な検査は行わないよう努めています。全身に起こり得る病気を見極めるためには、CT検査が必要な場面もありますが、女性の患者さんなどの中には、被ばくの観点から放射線を用いる検査はなるべく受けたくないと考える方もいらっしゃるからです。また、CT検査は体の奥の情報を得るのに適した検査である一方、皮膚の変化や体の表面に近い部分の筋肉、リンパ腺の腫れなどを診るには、触診のほうが有用であるといえます。

確定診断に向けた検査を行う

問診や触診、聴診などである程度疑うべき病気の見当がついたら、診断を確定するために必要な検査を実施します。なかなか原因が判明しなければ考え得る病気の可能性をやや広く捉え、必要に応じて血液検査やCT検査などを実施し確定診断を目指します。このとき、当院受診前に他院で受けられた検査の結果や画像データが貴重な判断材料となるのです。

よりよい診療を提供するための特徴

他科との連携により、適切な診断・治療を実現

当科では、ほかの診療科と連携しながら、よりよい診療を提供できるよう心がけています。

たとえば、診断において神経の病気を疑うケースでは脳神経内科、皮膚に発疹などがあれば皮膚科、白血病などの可能性があれば血液・感染症内科と連携するなど、必要に応じて専門的な検査・治療を提供できる環境が整っているのです。そのほか、腎臓内科、循環器内科、消化器内科、耳鼻咽喉科、歯科口腔外科、眼科といった幅広い診療科の医師に検査・診断への協力を仰ぎ、意見を聞いて、的確な診断につなげています。

加えて、他科から相談、紹介を受けた患者さんの全身状態を当科で確認し、正しい診断、そして的確な治療へとつなげた事例もあります。当院の総合力を発揮して早期に病気を突き止め、適切な治療を受けていただけるような体制を築いています。

丁寧な診察で患者さんの悩みに向き合う

まずは患者さんが何に困っているのか、じっくりお聞きしています。初診では基本的に1時間程度の診療時間を確保しています。いくつもの悩みを抱えている方もいらっしゃるため、整理しながら順番にお話を伺い、それぞれの悩みに関連があるかどうか確かめていきます。また、触診や聴診など、時間をかけて丁寧に診察するのも特徴です。

時には生化学や生理学、解剖学といった基礎医学に立ち返り、患者さんの体のどの臓器やどの細胞で何が起こっているのか推測しながら病態を突き詰めていくことで、“結果的にこのような症状が出てきているのではないか”と考えます。最初からあえて病気を絞ることをせず、あらゆる可能性を考えて、できるだけ誤診が起こることがないよう努めています。

大切にしている考え方――患者さんの幸せのために全力でサポートを

どんな症状・訴えにも向き合うよう努めている

総合内科のスタッフたち
総合内科のスタッフたちの写真

当科には、内科志望の医師もいれば、総合診療科志望で将来的に地域医療や在宅医療に携わることを見据えている医師もいます。内科志望の医師は、病気の原因をしっかり把握して治そうと考える傾向が強く、一方、総合診療科志望の医師は、患者さんのQOL(生活の質)や満足感といった点まで幅広い視野をもって考える傾向があります。総合内科の診療においては、いずれの要素も非常に重要だと考えています。

当科の医師は皆、性格が穏やかで、焦らずじっくり患者さんと向き合い、どのような症状・訴えにも正面から向き合おうとするマインドを持っています。分からないことがあっても分かるためにはどうすればよいか、責任を持って考えるというスタンスで診療にあたっているのです。

若い医師も着実に経験を積んできており、疑問を持ったら関連する論文や専門書を読んだり、先輩医師に相談したりしながら、過去の事例も参考にしつつ丁寧な診療に取り組んでいます。

患者さんの幸せのために全力でサポートする

同じ病気でも、治療方法は1つではありません。当科では、これが適切だと考えられる治療法のほかに、複数の選択肢を提案しています。その際には、医学的な面のみならず、経済面、ご家族との関係性なども考慮した提案をするよう心がけています。

患者さんの生活背景が病気につながっていると考えられるケースでは、家庭内で心配事やストレスがないかお聞きしたり、生活指導や介護サービスに関するアドバイスをしたりするなど、一歩踏み込んだお話をする場合もあります。たとえば糖尿病についていえば、ご家族が何か問題を抱えており、その対処に時間を取られてご自身の食事が後回しになったり、ストレス解消のため甘いものの摂取量が増えたりして、体調管理が行き届かなくなることもあるでしょう。このような症状悪化の根底にあるご家庭の事情なども把握し、それを踏まえた改善策を見出していこうと努めています。

当科が目指しているのは病気の治療だけではありません。診療においては、患者さんの幸福感を大切にしています。中には治りにくい病気もありますが、苦痛を和らげ、幸せな人生を送るにはどうすればよいのか、といった視点から全力でサポートしています。

未来に向けて――地域で果たしていきたい役割とは?

大学病院としての役割を果たすために

カンファレンスの様子
カンファレンスの様子の写真

必要に応じてほかの診療科とも連携するなど当院の医療資源を最大限活用し、他院で分からなかった病気を突き止めるのが第一歩です。そのうえで、病気をしっかり治療できる体制を整えておくことが大学病院としての大切な役割だと考えています。

高齢の方をケアする地域医療、在宅医療にも注力

当科には、地域医療、特に在宅医療を志す若手医師も少なくありません。今後は、訪問看護師などと連携しながら、地域に暮らす高齢の方たちをケアする在宅医療にも力を入れていきたいと考えています。

在宅医療は、患者さんが残された人生を心穏やかに過ごすには欠かせないものです。一方、医療を提供する側から見ると、使える検査機器や治療方法が限定されるうえ、急変した際には自らの責任で即時に判断し、適切に対応しなければならない過酷な現場であるといえます。そのような環境でも的確な診療を提供できる高い能力を持った医師の育成も、私たちに課せられた使命だと思っています。

健康意識向上や予防医療への貢献

地域や行政と連携して人々の健康意識を高め、病気の予防、健康長寿に向けた取り組みを進めていくのも当科の大切な役割だと考えています。私たちの積極的な働きかけにより、人々が長く健康を維持し、楽しく幸せに暮らせるようになれば、地域の活性化にもつながると期待しています。

森田先生からのメッセージ――困っている方はご相談を。原因を突き止め適切な治療へ

複数の不調を抱えている、原因が分からない症状に苦しんでいるなど、体調面で困っていることがあれば受診していただきたいと思います。当科では、ほかの医療機関を受診しても分からなかった不調の原因を突き止め、適切な治療を受けていただけるよう、幅広い診療科の医師と連携しながら丁寧な診療に努めています。基本的にかかりつけのクリニックなどからの紹介状があればどのような患者さんも受診いただけますので、お悩みがあればまずはご相談ください。