AHPにおける鑑別診断の重要性
急性肝性ポルフィリン症(acute hepatic porphyria:AHP)は日常診療では発見されにくく、診断が難しい疾患です。 AHPに特徴的な症状としては、「腹痛」が知られています。ただし、腹痛自体は、他の疾患にも頻繁にみられる非特異的な症状です。そのため、初期診断では、イレウスや虫垂炎などと誤診される患者も少なくなく、誤診された症例の約1/4で、侵襲性の高い開腹手術などの処置が行われたとする国内データも報告されています1。
AIP (198例中) |
VP (56例中) |
HCP (41例中) |
分類不明 (58例中) |
計 (353例中) |
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急性腹症 | 50 | 13 | 12 | 19 | 94 |
イレウス | 28 | 3 | 3 | 5 | 39 |
虫垂炎 | 15 | 0 | 1 | 3 | 19 |
ヒステリー、心因性反応 | 15 | 0 | 0 | 0 | 15 |
妊娠悪阻 | 6 | 1 | 1 | 2 | 10 |
急性膵炎 | 9 | 2 | 1 | 1 | 13 |
てんかん | 2 | 0 | 7 | 3 | 12 |
急性胃炎、胃・十二指腸潰瘍 | 4 | 0 | 2 | 2 | 8 |
肝障害 | 4 | 1 | 1 | 0 | 6 |
ギラン・バレー症候群 | 2 | 2 | 0 | 0 | 4 |
軸捻転(卵巣) | 2 | 0 | 0 | 1 | 3 |
胆石 | 1 | 1 | 0 | 0 | 2 |
子宮外妊娠 | 2 | 0 | 0 | 0 | 2 |
スモン | 2 | 0 | 0 | 0 | 2 |
日光皮膚炎 | 0 | 1 | 1 | 0 | 2 |
腎・尿路結石 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
ミエロパチー | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
その他 | 1 | 0 | 2 | 0 | 3 |
総計 | 145 | 24 | 31 | 36 | 236 |
また、クローン病などの消化管障害、線維筋痛症や精神障害などの神経/精神神経障害、子宮内膜症などの婦人科疾患、腹膜炎などの急性腹症も、AHPと似通った症状を呈する疾患であることが明らかになっています2-4。
急性腹症診療ガイドライン2015では、腹部全体の腹痛や、腹部疝痛を繰り返す際に鑑別すべき疾患として、急性ポルフィリン症を含む様々な疾患が推論されるとしています5。AHP患者が初診で訪れる診療科は、神経内科、消化器科、精神科などが多く、一部は、急性腹症として救急外来や外科、婦人科が初診の診療科となることが報告されています1。
- 参考文献
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- 近藤 雅雄, 矢野 雄三, 浦田 郡平. ALA-Porphyrin science. 2012;2:73-82.
- Ventura P, Cappellini MD, Biolcati G, et al. Eur J Intern Med. 2014;25(6):497-505.
- Balwani M, Wang B, Anderson KE, et al. Hepatology. 2017;66(4):1314-1322.
- Alfadhel M, Saleh N, Alenazi H, et al. Neuropsychiatr Dis Treat. 2014;10:2135-2137.
- 急性腹症診療ガイドライン出版委員会編. 急性腹症診療ガイドライン2015. https://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0214/G0000779/0001
- AHPの症状
- AHPにおける鑑別診断の重要性
- 急性発作の主な誘因
- 長期罹患に伴う合併症リスク